犬と猫…ときどき、君
“それ”が確信に変わったのは、異変に気が付いてから一ヶ月以上経った頃。
「……っ」
冷蔵庫の中に入っていたそれに、私は息を飲んだ。
「城戸」
「……どうした?」
口を吐いて出た声が、自分でも分かるくらい震えている。
「これ、城戸じゃないよね……?」
目の前の、二人で使うには大きすぎる冷蔵庫の、ちょうど真ん中の段。
視線の真正面にあるそれに、私は震える指を伸ばした。
【こんな物飲んでないで、もうちょっと糖分を取らないと。最近疲れているみたいだよ?】
そう書かれた付箋が貼られているのは、私の飲みかけのウーロン茶。
500ミリのパックに刺したままになっていたストローには、誰のものかもわからない噛み痕が付いていた。
「……っ」
気持ちが悪い。
貼ってあるその付箋だって、多分私の机の中に入っていた物だし、あのペンだって……。
たくさん文字を書く仕事だから、少しでも楽しくなるようにと、私は自分の好みに合わせたペンを使う。
細さもそうだけど、インクの色も。
この色は、あの無くなったペンの、深い青緑色。
「芹沢、心当たりは?」
「え……?」
茫然と立ち尽くす私の横には、いつの間にか春希が立っていて、冷蔵庫に伸ばした手でその“異物”を掴むと、それをそのままゴミ箱に叩き込んだ。
「いつから?」
「一ヶ月、前くらい」
「……ごめん」
私の返事に春希は大きく息を吐き出して、 何故か謝罪の言葉を口にする。
「あのペンの時だろ? もっと気にしとけばよかった」
「……」
「芹沢」
「うん」
「出来るだけ、一人でここにいないようにして」
何となく感じていた。
これが“普通”ではなくて、“危険”な状況なのかもしれないということを、何となく理解していたのに。
頭がそれを、否定したがっていた。
だから春希の言葉を聞いた瞬間、それを改めて認識させられて、体がカタカタと震え出す。
「俺も気を付けるから。分かったか?」
「……」
「芹沢」
「……うん」
顔を覗き込むようして、春希が優しい声で私を呼ぶ。
だからやっと、呼吸が少しだけ楽になって、小さな声ではあるけれど、何とか返事をする事ができた。