犬と猫…ときどき、君

こんなことは初めてだった。

診療中は別にしても、いつも心が休まっていたこの場所で、こんな気持ちを抱くなんて。


“怖い”

“一人になりたくない”

“でも、家に帰るのも怖い”


毎日が、これのくり返し。

そんな私を気遣って、「大丈夫」という私の言葉を無視した春希は、休みも取らずに病院に来てくれていたし、家にはマコが来てくれて……。


そんな生活を二週間ほど続けていると、それまでの事が嘘だったかのように、起こっていた気持ちの悪い事がピタリと止んだ。


だから、もう大丈夫だと思った。

大丈夫だと思ったし、その日はみんながバタバタと忙しかったから……。


「あれ? アーツェがないや」

注射用の薬が切れている事に気が付いた私は、仕方がなしに、一人でその保管場所である医局内の倉庫に向かったんだ。

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