犬と猫…ときどき、君


「あれ? 芹沢は?」

急にやって来た癲癇《てんかん》発作のパピヨンに点滴を入れ終わった俺は、診察室を出てすぐ、胡桃がいない事に気が付いた。


「え? さっきまでそこに……」

振り返ったミカちゃんの視線の先には、吸いかけのまま、キャップがはめられている注射器。


――まさか。


受付にはサチちゃんがいて、ミカちゃんは会計にいる。

コトノちゃんは、さっきまで俺の助手をしていた……。


「ごめん、これ片付けておいて」

持っていた使用済みの針や点滴に使ったテープを、戸惑うコトノちゃんに手渡し、急いで検査室に向かう。


「椎名!!」

「うわっ!! なによー……。ビビらせないでよ。さっきの子の検査なら、まだ――」

「芹沢は?」

「え?」

「芹沢見なかったか?」

「あ、さっき通ったかも」

「……っ」

椎名の言葉を聞いた瞬間、心臓が大きく脈打って、鼓動が速まるのを感じた。


「ちょっと、城戸!?」

慌てたような声を背中で聞きながら、俺は胡桃が向かったであろう、医局に急いだ。



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