犬と猫…ときどき、君


何となく、そんな気はしていた。

だけど、確信が持てていないのに、下手にそれを問い詰める事なんて出来なくて……。

「胡桃!!」

大きな音を立てた扉に、ソイツが大きく肩を震わせたのが分かった。


「はる……き」

「……っ」


どうして。

どうしてこんな事が出来るんだ?

目に映るその光景に、どうしても声が震えてしまう。


だってこんなの……。

怒りで頭がおかしくなりそうだ。


――目の前には、涙をボロボロこぼす胡桃と、その胡桃を無理やりロッカーに押さえつけ、首筋に顔埋める男。


そいつが、俺の声にビクッと体を跳ね上がらせて、顔を上げる。


「浜田さん、何してるんすか?」

「……っ」


その男は……“浜田さん”。

ずっと胡桃に付きまとい続けていた男だ。


ゆっくりと俺に向き直った浜田は、青ざめた顔のまま、ただ震えるだけで何も言葉を発しない。



「浜田さん。警察を呼びます」

「あの……っ!! 違うんです!!」

「何が?」

「これは、そうじゃなくて……っ、だって、急に辞めるなんて言うから!! いや、ここに来たのは偶然で、芹沢先生が……具合悪そうで……っ」


もう言っている事は支離滅裂で、聞いているのもバカらしくなる。

目の前の胡桃は、まだ浜田の体に隠されたまま。


どうしてこんな奴が……。


フツフツと込み上げる怒りは、もう抑えきれそうにない。


「浜田さん」

「……」

「胡桃に触れていいのは、俺だけなんですよ」

「え……?」


目を見開く浜田の前で、思わずそう口にしていた。


――そうだよ。

こんな男が、胡桃に触れていいはずがない。


グッと顔を寄せた俺に、浜田さんはゴクッ息を飲んで、

「これ警察に言ったらさ、お前の親父の会社、潰れんじゃねーの?」

その言葉に、またブルブルと震え出す。


「……めんなさい」

「あ?」

「もうしません」


“もうしません”って、バカかこいつ。


「“もうしません”じゃねーよ」

「え?」

「“もう来ません”だろ。で、もう死んでも胡桃の前に姿見せんな」

「……っ」

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