犬と猫…ときどき、君
コイツはきっと小心者で、こんな風に追い詰められないと、自分では行動なんて起こせない。
今の生活があるのだって、仕事があるのだって、親父のおかげなんだろ?
ホントたちの悪い“親バカ”なんて、ろくでもねーな。
「どうする? さっきアンタ、胡桃の首にキスしてた? あー、前にアンタが噛んだストローとかもあったっけ」
「……いえ、あのっ」
「煙草の吸い殻からでもいけるって聞いたんだけど、DNA調べんのって、そのくらいの唾でも出来んのかな?」
「……」
「どうする? 黙ってても分かんねーんだけど」
もうイライラが限界だった。
それに何より、浜田の後ろで床に座り込んでしまった胡桃を、何とかしてやりたい。
「答えねーなら、警察呼ぶぞ」
低い苛立ちを含んだその声に、浜田はついに泣きそうな顔になり、
「すみませんでした……。警察には……言わないで下さい」
小さくそう言って、俺の「約束は守れよ」という声に何度も頷くと、逃げるように医局をあとにした。
「胡桃」
「……っ」
「大丈夫だから」
床に座り込む彼女の前に静かにしゃがめば、胡桃は自分の体を抱きしめるように腕を掴んで震えていて……。
「ごめんな」
そっと伸ばした指に、ハッとしたように視線を上げる。
長い睫も、大きな瞳も、滑らかで白い頬も、涙でグショグショに濡れている。
「一人になるなって言っただろ……っ」
今、こんなことを言うべきじゃないのに……。
胡桃の首筋につけられた紅い印に、どうしても怒りの感情があふれ出てしまった。
そんな自分本位な俺の視界に、ゆっくりと開かれる、胡桃の唇が映り込む。
「――にしてんの?」
「え?」
「何してんの?」
「は?」
「何してんのよ!!」
それまで伏せられていた瞳を上げ、俺を真っ直ぐ見つめた胡桃は、まるで怒っているようで……。
「へ?」
こんなシリアスな時に、変な声が漏れ出てしまった。
「何してんの!? バカじゃない!?」
しかも、バカ呼ばわり。
「だって、あんな事したら……っ、春希があとで困るかもしれないじゃんっ!!」
あー……。
「どうしていつもそうなの!? どうして自分のことをもっと考えないのっ!?」