犬と猫…ときどき、君
――こいつは本当に。
「じゃー、自分で何とか出来た?」
「……っ」
「あのまま放っておいて、胡桃がヤられてから、警察に突き出せばよかった?」
「それは……っ」
「そんなの許すか、バーカ。ふざけんな」
「ふざけてなんかない。あんなの、何とかできたもん」
そう言う胡桃の手も体も、まだガタガタと震えたまま。
「……」
本当は、胡桃が空港まで来てくれたあの日から、ずっと考えていたんだ。
“俺達二人にとって、一番いい道”ってやつを。
きっと胡桃は、色んな人を傷付けたことを気にしていて、これからの二人のことに不安を抱えていて――俺と同じように、“最後のチャンス”がくるのを待っていたんだと思う。
それを散々考えて、考えすぎて。
だけど、なんかもういいや。
“いいや”って言うと、語弊があるけど……。
「胡桃」
「……なによ」
つーか、なんで怒ってんだよ。
「胡桃?」
「だから、なに?」
「結婚しよ」
「――は?」
“は?”って……。
「お前、人の一世一代のプロポーズに“は?”ねぇだろ」
「だ、だって意味が分らない」
「何で?」
目の前には、驚きを通り越して、もう変な疑いさえ抱いていそうな胡桃の顔。
「普通そこに至るまでに、色々あるでしょ!?」
「“色々”って?」
「だから……“付き合おう”とか、“やり直そう”とか」
あー、なるほど。
だけどさ、胡桃。
「それって、俺達に必要?」
「……」
だって、そうだろ?
「俺は胡桃のこと誰よりも分かってるつもりだし、俺のことを誰よりも理解してくれるのは胡桃だと思ってる」
「……」
いつの間にか泣き止んでいた胡桃は、俺を真っ直ぐ見上げたまま。
戸惑からか小さく揺れる瞳に、俺は少しだけ笑ってその髪を撫でた。
これだけ伝えられたら、もう十分。
そう思いながら胡桃の腕を掴み、立ち上がらせた時、静かになった部屋に控え目なノックの音が響いた。