犬と猫…ときどき、君
「はい」
返事をした俺の目の前で、ドアがゆっくりと開けられて、オズオズと顔を出したのはコトノちゃんだった。
「すみません。診察、お願い出来ますか……?」
気まずそうなに俺を見上げた瞳は、そのまま胡桃に移されて、一瞬驚いたように見開かれる。
「ごめん、今すぐ戻る」
そう答えて胡桃から離れ、コトノちゃんが待つ扉に向かって歩き出し……あることを思い出して、振り返った。
「悪い、順番間違えた」
「え?」
「胡桃、好きだよ」
「えっ!?」
すぐに返ってきた素っ頓狂な声は、胡桃じゃなくてコトノちゃんのもの。
驚く彼女をその場に残し、もう一度胡桃の前に立った俺は、顔を赤くする胡桃の首もとに顔を埋め、そこに強く吸い付くようなキスをした。
「……っ」
「さっきの、考えといて」
あのクソ野郎が付けた紅い印を消し去るように、自分の印を刻み込む。
こんなんで、胡桃が俺のものになったりはしないけど、それでもやっぱり嫌なんだ。
俺以外が、胡桃に触れるなんて……もう嫌だ。
「俺はもう後には引けないから、多少卑怯な手でも使うぞ」
笑いながら胡桃から離れると、俺の作戦通り、コトノちゃんは「キャー!!」と叫びながら駆け出して、表に戻ると、もうそこにいた三人に、全ての事が伝わっていた。
案の定、その日一日、胡桃は隙あらばアニテク三人娘に囲まれて、一人アワアワ。
それを遠くから見て笑う俺に、椎名が近寄ってきて、「今まで、色々ごめん」なんて、不貞腐れながららしくない事を言うから、また笑ってしまう。
胡桃の返事次第では、多少気まずくなるかもしれないけどさ、それもいいと思った。
逃げたってどうしようもない事を嫌というほど思い知った俺は、少しだけ強くなれたのかもしれない。
もし今はダメだったとしても、横山先生が奥さんを想って、抱いていたような感情を、俺も胡桃に対して抱けるんじゃないかな?