犬と猫…ときどき、君
やっぱり春希は不思議。
指先が私に触れた瞬間、体に走る電気のようなその感覚も、肌にすいつくような温もりも変わらない。
心臓がおかしくなったんじゃないかと思う程ドキドキしているのに、触れられると泣きたくなるくらいホッとする。
矛盾したその感情は、何度も何度も湧き上がっては消えていく。
とにかく、気持ちがよくて仕方ない――……。
その唇も指先も、私に触れる全てのものに、吐息が漏れてしまう。
「あ……っ……」
だけど、その小さな声に、春希の手がピタリと止まった。
「――……つっ」
その後すぐに、首筋に小さな痛みが走って……。
「他の男にも、そんな声聞かせたの?」
春希の苦しそうな声が、胸に突き刺さった。
「こんなくだらない嫉妬、懲りたはずなのに……。全然成長してねーな」
一度は上げた顔を、もう一度私の首元に埋めた春希が、そこでフーッと息を吐き出して、そこに生温い空気だまりを作る。
あの頃は受け入れる事が出来なくて、お互いを傷付け合ってしまったその感情。
だけどね、春希。
今なら、それもこんなに愛おしく感じられる。
「こんな事、言っちゃいけないって分かってるんだけど」
「……」
「春希じゃないとダメだった。どんなに愛してもらっても、気持ちがついていかなくて、どこか虚しくて……」
嘘じゃないよ?
「春希じゃないと、満たされない。ココロもカラダも、満たされないの……っ」
そんな私の、最低な懺悔の言葉に、春希がゆっくりと顔を上げて、言ったんだ。
「泣くなよ」
「ごめん……これは」
「“心が震える”?」
「うん……っ」
覚えてる。
あなたとの間に起きたことは、全部覚えていて、忘れることなんて出来なかった。
初めて春希の温もりに包まれた、あの夏の日。
“心が震える”――そう言って涙を流した私を、春希は覚えているの?
「覚えてたの?」
「当然」
そう言って笑う彼の顔は、あの頃よりも少しだけ大人っぽくなった。
「忘れられるはずない」
だけど、変わらない真っ黒で綺麗な瞳を細めた春希は、あの頃と同じように、私の体中に優しい雨のようなキスを落としてくれる。