犬と猫…ときどき、君
「……」
「……」
何これ。
私にどうしろって言うの?
一番大きな八人用のバンガローの片隅で、ガヤガヤと騒がしい仲間達をボーっと眺めながらビールを呑んでいる春希と、その隣で、一人気まずい思いをさせられている私。
何か話したいのに、さっきの春希の一言が頭の中をぐるぐる回って、困ってしまう。
「なぁ」
「は、はいっ!?」
「……」
「……」
「声、裏返ってるけど」
バカみたいに慌てる私を尻目に、一人で“くくく”っと楽しそうに笑う春希を、私は不貞腐れながら見上げる。
「何だよ」
「……別に」
「あっそう」
そんな一言と共に、天井を見上げた春希。
真っ直ぐ前を見つめる私の瞳に映るのは、さっきまでここで私達を散々からかって、こんな空気を作って去って行った彼女達の姿。
もうその事なんかすっかり忘れて、少し離れた所で栗原達とピンポンパンゲームなんて、懐かしいものに夢中になっているし……。
「春希、ソフト上手いよね」
沈黙に耐えられなかったのと、絶対的に被害者の私達が、こんな状態なのが悔しくて、正面を見据えたままポツリと呟いた私の一言に、春希は少し笑った。
きっとまた“変な女”とか、“話題の転換が急過ぎるだろ”とか、そんな事を思ってるのだろう。
「昔、野球やってたから」
「そうなの?」
「おー、高校までな。親父がスポ少の監督やっててさ、強制入団だよ」
へー、それは初耳。
「そうだったんだ。ねぇ、春希のお父さんってどんな人?」
私の突然の質問に、一瞬驚いたような顔をした春希だったけれどフッと笑ってその目を僅かに細めて口を開いた。
「熊みたいな、オッサン」
「クマ?」
「あぁ。柔道とかもやってて、すっげーごっつくて、マジでこえー」
それから、幼い頃の恐怖体験をいくつか披露した春希は、その言葉とは裏腹に、すごく楽しそうな顔をしている。