犬と猫…ときどき、君
「だから春希、そんなに捻くれちゃったの?」
「は? 俺、超真っ直ぐ育ってますけど」
クスクスと笑う春希を横目に「はいはい」なんて呆れたように返事をして。
「仲良いんだね」
その言葉と共に思い出したのは、自分の家族のことだった。
「……どこをどうしたら、そんな結論に達するんだ?」
「だって、想い出を語れる時点で、それだけ一緒にいたって事でしょ? だから、羨ましい」
「……」
「私、小さい頃の記憶に家族との想い出なんて、ほとんどないから」
自嘲的に笑いながらポツリと呟いた一言に、春希はさっきまでの笑いを引っ込めて、真顔で私を見つめる。
「そういや、胡桃の家族の話しって聞いた事なかったかもな」
「……聞きたい?」
「まぁ、聞きたいか、聞きたくないかと聞かれれば」
そう口にしたあと「胡桃が話したくないなら、聞かないけど」と、言葉を続けた。
「うちはね、医者一族なんだよ」
「……」
「おじいちゃんが病院経営してて、お父さんも、お父さんの兄弟も八人中六人医者だし」
「すげーな」
話しの展開がつかめていない様子の春希は、少し困惑したように、そんな言葉を口にする。
「お父さん、ハイケアとか救急医療やってたから、小さい頃から家に全然いなくて……。気付いたら、あんまり喋らなくなってた」
「……そっか」
「で、イトコとか親戚も、みんな医者になって当然って感じで」
「……」
「獣医学部に入った時も、大学に合格したって言ったら、親戚には“どこの医学部?”なんて聞かれて」
その時の事を思い出して、少し俯きながら床に付いていた手をギュッと握った。
その手をそっと包み込んで、ビールを一口、コクンと呑んだ春希。
つられて、私も手に持っていた、少し温《ぬる》くなったチューハイを口にする。