犬と猫…ときどき、君
「春希ぃー……」
「んー?」
まだ日中の蒸し暑さが残る道を、たくさんの虫の鳴き声を聞きながら、ノロノロと歩く。
手を繋いで少し前を歩く春希の背中を見つめながら、私はあの合コンの日の事をボンヤリと思い出していた。
「今日は、手冷たいんだねー」
「俺が冷たいんじゃなくて、お前の手が熱いんだよ」
「何で?」
「“何で?”ってお前……。お前がアホみたいに、酒ガボガボ呑んだからだろ」
意地悪な言葉とは正反対の優しい声に、それで無くともお酒で速い鼓動が、また少し速くなる。
「春希ー」
「はいよー」
「こっち向いてー」
「……」
私の声に、少し前を行く春希がゆっくりと振り返る。
「楽しいね」
「ん?」
「旅行、楽しい」
そこでやっと私の言葉の意味を理解したらしい春希は「そいつは良かったなぁ」と、まるで子供にそうするみたいに、私の頭をぐりぐりと撫で回した。
それにトクンと跳ね上がる、私の心臓。
――でも。
「ねぇ、春希」
「ん?」
「気持ち悪い……っ」
「はぁ!?」
口元を押さえながらしゃがみ込んで、こみ上げてくる物を必死に抑える自分は、やっぱり色気のない女だと思った。
ダメだ。
絶対にダメだ。
例え相手が彼氏だったとしても、そんな大失態を冒すわけにはいかない私は、ただひたすらに、その波が過ぎ去るのを待ち続ける。
必死な私の隣にしゃがみ込んだ春希はというと「お前、ホントに変なヤツだなー」なんて、楽しそうに笑いを噛み殺していた。