犬と猫…ときどき、君

だけど、春希となら。

そう思って、静かに瞳を閉じた。


閉じたんだけど――……。


「俺、酔っ払いには、手ぇ出さない主義」


そんな言葉と共に、ベリッとその体から引き剥がされた私は、何が起きたのか理解できず、一人目を瞬《しばた》かせる。


「酔った胡桃を抱いても、虚しいだけだし」

「……っ」

顔がカッと赤くなるのが、自分でもわかった。

後悔なのか何なのか、よくわからない感情が湧き上がった私の視界が微かに滲む。


何してるんだろう。


自分のバカみたいな行動が恥ずかしくて、春希に謝ろうと、ゆっくりと顔を上げる。

「……え?」

だけど気づいた時には、目の前に私を真っ直ぐに見つめる春希の瞳があって。


それがゆっくりと伏せられて――

「……んっ」

突然塞がれた、私の唇。


「――っ」

ただ、唇を重ねただけ。

それなのに、頭がこんなにもクラクラする……。


驚きで見開いた瞳の先には、うっとりしてしまうほどに綺麗な春希の顔。


パニックで、よくわからない事になっている私から、そっと唇を離した春希は、

「できた彼氏を褒めろよ?」

私の頭をポンポンと叩いて、至近距離で目を合わせ、笑いながら言葉を落とした。


「もうちょっと休んどけ。俺、一回向こう戻るから」

そう言って立ち上がると、言葉に詰まる私をベッドに置き去りにして、まるで何事もなかったかのようにバンガローを後にした。
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