犬と猫…ときどき、君


でも――

「はる……きっ」

やっと解放された唇から紡がれたその声は、自分でも驚くほど小さく、細い声で。

その声を聞いた瞬間、春希の動きがピタリと止まった。


「春希……」

二度目の呼びかけに、ゆっくりと私に覆いかぶさっていた体を起こした春希は、鳥肌が立つほどに綺麗な“男の顔”をしていた。

だけど、私と目が合った瞬間、その表情をグッと歪ませる。


「悪い」

「……え?」

ゆっくりと重みから解放された私の体は、どうしようもないくらい火照っていて。

夏の夜の空気が、冷たく感じる程だった――。


「はぁー……」

さっきまで私の唇を塞いでいた、形のいい唇から吐き出された溜め息。


「ごめん」

起き上がり、胡坐をかいた春希は、下を向いて自分の額に手を当てながら、ポツリと謝罪の言葉を口にした。


違う。

謝って欲しかったんじゃないの。


「ホント……何してんだ俺」


――違くて、そうじゃなくて。


「ごめんな」

春希は少し困ったような笑顔を浮かべ、私の髪を、ゆっくりと撫でた。


「そんな顔すんな。もうしないから」

“そんな顔”って……どんな?


「泣くなよ」

「――……っ」

その一言と、そっと頬に触れた彼の手で、自分が泣いている事に気が付いたんだ。

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