面倒くさい恋愛劇場
 「どうして?」
 こんなに好きなのに、どうして。
 それは、彼女の単純な疑問だ。
 
 「あんたは、俺を見てないから。自分しか見てないから」

 (ああ、確かに)
 彼女の意識は、「自分」に振り向いてくれない彼を見ていて、どうして「彼」がそう思うのかは抜け落ちている。
 (まさに、恋に恋して空回り、みたいな)

 「恋愛したいなら、ちゃんと最初に俺の前に姿現せよ。見てるだけなら、見てるだけに徹しろ。迷惑だ」

 ちょっときつい言い方かもしれない。
 けれど、自分から向き合おうとしない人まで相手にしていられないんだろう。彼は。
 (うん。きっとそうだ。アプローチしてくる女の人、たくさんいそうだし)

 「……向き合ったら、わたしを見てくれるの?」
 「向き合ったからって、好きになれるわけじゃないけれどな、少なくとも、話くらいはしてやるよ。面倒だけど、そうじゃないとわかりあえるもんもわかりあえないって知ってるから」
 「…………無視しない? 電話や手紙を無視したみたいに」
 「一方的に送りつけたり、人の居ない時間に電話してきたりするんじゃなければちゃんと読んだし、電話にも出たよ。ちゃんとあんたが自分のことを名乗ったり、話をしようという気持ちがあったならの話だけど」

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