≡ヴァニティケース≡
恐怖から解放された実感からか、いつもの駄洒落も今は有り難く聞こえる。今後はオヤジギャグにももっと寛容にならなければいけないだろう。
「インスタントコーヒーですが、どうぞ」
「いやいや、ほら、マメじゃない私にはこれで充分」
「いやだ先生、コーヒー豆に掛けてるんですか? それ解りづらい。フフフ」
「これはしくじったな、はっはっはっ」
聞けば石田は、最近の美鈴に元気が無いのを気に掛けていたらしい。今日は特に様子を見兼ねて訪ねてきたとのことだ。
「あの神社を訪れてからというもの、美鈴君の元気が無くなってしまったから……きっと私が何かやらかした所為だと思ってね。これはお詫びの手土産なんだが」
石田は当然、事務員の美鈴よりも遅い時間まで病院に居る筈だ。今、にこやかな顔で座っている彼は、仕事をわざわざ早めに切り上げて来てくれたに違いない。
「そんな……、あの時お付き合い頂いて、先生には感謝しているんです。本当なら私がお礼をしなきゃいけないのに、お詫びだなんて……」
美鈴は両手を突っ張って、石田が持ってきた包みを押し返した。