≡ヴァニティケース≡
美鈴は自分のルックスに自信を持っていた。
大きく猫のように潤む漆黒の瞳、小振りだがまっすぐ通った鼻梁、尖った顎が輪郭を引き締める小さい顔。高い位置に佇む形の良いヒップ、充分に女性を主張している上を向いた胸。時にキツめの印象を持たれることは否めないが、欠点を探す方が難しい程の容姿だった。
「何だって言うの? 来ないで損するのは私みたいな言い方をして!」
怒りに任せて時計を見たが、アポイントメントの時刻まであと小一時間は有る。時間を早めても、逆に僅かながら遅れてしまっても、契約の成否に関わってくるのは過去の経験から嫌というほど思い知っている。結局は憤懣やる方ない気持ちのまま、喫茶店でティーカップを傾けるしかなかった。
「嫌な気分……」
喫茶店のドアを開けた美鈴は、まるで何かを振り払うかのようにサラサラのショートボブを掻き上げた。
髪型そのものは何の目新しさもないスタンダードなものだったが、これから向かうのはデモンストレーションという名の戦場だ。だから出向く前に気持ちを一新しておきたかった。何より、美鈴は自分のヘアスタイルとこの仕草自体を事のほか気に入っていた。