≡ヴァニティケース≡
「イヤだ、どっちが文房具屋さんだか解らなくなっちゃった」
そんなことも有って、美鈴はまるで誘い込まれるように道に迷ってしまう。方向を疑えば疑うほど暗い方へと進んでいた。民家の明かり、犬の遠吠え、暗い街灯。電柱には乱雑に張り紙が貼られていて、見れば「チカンに注意」とまで書かれている。
振り向いたらそこに誰かが……とりわけ悪意を持った者が居るかも知れない。美鈴が不安な気持ちにさせられた、その時だった。
「危ない! 後ろ!」
背後からした大きな声に、弾かれたように振り向くと、美鈴の視界に写ったのは目出し帽を被った作業員風の男だった。闇の中から現れた男は、なんの前ぶれもなく切り掛かって来る。