≡ヴァニティケース≡

 ちょうどその頃、美鈴は湯船に浸かりながら正体の掴めない敵意に対して想像を巡らせていた。


 ブクブクと水面に口を浸し、鼻で呼吸をしながら物思いに耽っていると、頭に浮かぶ全ての人物が疑わしく思えてくる。


「パートのおばさん? それはないわ。でも蒔田のオヤジって線は濃厚よね」


 疑心暗鬼と、そう言えば言葉に過ぎるだろうか。だが、これまでストーカーだと思っていた相手とは別の男に襲われ、なのに不安の種だったはずのパーカー男から救われる、では剰りに脈絡が繋がらない。


 仮に蒔田が黒幕だとすると即ち、美鈴を襲わせる為だけに人を雇った事になるが、他に思い当たる人物が居ないだけに、美鈴は尚更奇妙な気分にさせられていた。


「今日の事も有るし、もしも奴が手引きをしているなら、更にキツイ攻撃を仕掛けてくる筈だわ」



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