≡ヴァニティケース≡

─────原因は有ったし、証拠も掴み掛けた。それならば、そうよ! ここを乗り切りさえすれば、もう何も問題は無くなるわ!─────


 そう思えば自然、恐怖よりも闘志が先に立つ。ここ京都を新天地に選んだ以上、美鈴は敵が誰であっても後込みする訳にはいかなかった。


「あんな奴には負けない……」


 忍び寄ってきたまどろみの中で、美鈴はそう呟いていた。


「いっけない! 急がなきゃ」


 翌日の朝、美鈴はいつもより30分も寝過ごしてしまった。朝の空にはいくぶん雲が泳いでいたが、それでも暗いという程ではない。どうやら昨夜は、アラームをセットすることなく寝入ったようで、朝の光だけで目覚められない自分をうらめしく思った。雀の声も、忙しげにそんな美鈴を急き立てている。



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