≡ヴァニティケース≡

「でも朝ご飯を食べなきゃ大丈夫」


 今日美鈴は、蒔田の様子を観察するつもりでいた。襲撃が失敗に終わった首謀者が、翌日の朝に平静を保てるものか。出勤直後の、その一番最初の視線の交錯から夕刻まで、彼の挙動の変化を見逃す訳にはいかないのだ。


 目は口程にものを言う。よほどの訓練をしない限り、瞳は理性の支配を受けない筈で、蒔田もその例外ではないだろう。


─────奴が黒幕ならボロを出す筈だけど、そうよね─────


 遅刻しないよう、急いでパンプスを突っ掛けて家から駆け出した美鈴だったが、一転して歩を弛めた。


「いっそギリギリに着いた方がいいのかも」


 襲撃の失敗は、昨夜の時点で蒔田にも報告が行っているだろう。当然あの後、美鈴が警察に駆け込んだのか電話で報せたのか、いずれ彼はその後の動向を慮っていたに違いない。



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