≡ヴァニティケース≡
ピリリリリ。
すると、すぐに逃走したステーションワゴンを発見した酒井から電話が入る。
「俺だ。見付けたか。……ああ解った」
「塚田さんっ」
「大丈夫だ。いま、酒井が目標を追跡中だ。こっちもこのまま9号を西に向かって走れ。酒井と合流するぞ。急げ!」
塚田達が乗った車が速度を一気に上げる。車線はおろか排水溝のコンクリート板まで目いっぱいに使って、追い越せる車は片っ端から追い越した。教会に向う牧師のように制限速度きっかりで走る訳にはいかない。早く酒井と合流しなければならないのだ。
「あれです、見えました!」
街灯とガードレールに仕切られた道路を、激しく蛇行しながら走る白いステーションワゴンが見えた。その後ろでは酒井が駆る赤い車が、前に出ようと右に左に隙を狙っている。