≡ヴァニティケース≡

「あの野郎、このまま沓掛から縦貫道に乗るつもりじゃないでしょうか」


 中島がPCの地図を開いて当たりを付ける。車が一台になってしまった以上、先回りは出来ない。


「ああ。北に上がり切れば奴らの親玉のお膝元だからな」


 おおよその行き先が解っても、見失うのは危険だ。塚田は煙草に火を着けながら、苦虫を噛み潰したような顔になった。


 案の定、白いステーションワゴンは京都縦貫自動車の入り口を登っていく。


「クソがっ! 振り切れると思うなよ!」


 ワゴンは高速道路に乗ってからも、遅い車を蹴散らしながら、右へ左へと車線変更を繰り返している。


「クソッ、ちょこまかと……いいか、絶対離されんなよ」


「任しといて下さい」


 運転している角林は、以前はカースタントの会社に所属していたこともある。この程度のカーチェイスはお手のものだ。ワゴンに乗っているのがジョン・デリンジャーでもない限り、そうそう車一台を取り逃す訳もない。フロントガラスを過ぎるのはフォードV8の白煙ではないのだ。ハイウェイ・トゥ・ヘルとは誰の曲だったか……とにかく、ここが奴らの墓場だ。



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