≡ヴァニティケース≡

 メーターは80km/h辺りを行ったり来たりしている。相手のドライブテクニックも考えれば、ここで仕留めるしかない。最終手段に出るのは、今だ。


 ヒュイイイン!


 キックダウンしたエンジンが一際高い雄叫びを上げる。


 ガツン!


 衝突と同時に、相手の影が慌てているのが見て取れた。


「ど真ん中じゃ駄目だ。端を狙え!」


 ヒュイイイン!


 グシャン!


 白いワゴンのリア部分は大きく凹み、タイヤから煙が上がりだした。取れかかったバンパーの金属部分が路面と接触して火花を上げている。追い詰めた状況を考えれば、感動したくなる程の美しさだ。


「よし、もう少しだ!」


 ヒュイイイイン!


 三度ミタビエンジンが吼えた時、相手の車は走行車線からトレーラーを追い抜き、その前に出ると急ブレーキを踏んだ。


「マズイ!」


 まるでスローモーションのようだった。断末魔の叫びを上げながら、木材を積んだトレーラー部分が横倒しになっていく。ヘッド部分は哀れ、二回三回と宙を舞いながら無惨に破片を飛び散らせている。やがてそれは鈍い衝突音と共にトンネルの壁へ突き刺さり、無惨に散らばった木材が、トンネルを完全に塞いでしまった。


〜火花散る攻防〜


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