≡ヴァニティケース≡
────……ここは、……どこだろう……────
茜色に染まった空の下に、墨でも溶いたような真っ黒い川が横たわっていた。その黒々とした水は、流れているのかいないのか、漆黒の光沢を放ち、河岸の石垣を写してユラユラとたゆたっている。
見回せば、こちら側の岸には石田の姿があった。蒔田の姿もあった。宇佐美も、隆二もそこにいた。なのに向こう岸には美鈴自身の姿が見える。まるで鏡にでも写したように、二人の美鈴が此方と彼方で向かい合っていた。
────あれは、誰? 私? じゃあ、ここに居る私はなんなの?────
どこからか口寄せの巫女が呟く呪文まで聞こえてくる。ここは現世か黄泉か、それとも実際在るとは思ってもみなかった、あの来世か。