≡ヴァニティケース≡

 頭の中で聞こえていた声を振り払うと突然、今度は石田から聞いた『一条戻り橋』の映像が美鈴の脳内を支配した。


 剛が通り掛かるのを知って、戻り橋で待ち伏せているのは美鈴。ひとっ子一人居ない真夜中の橋に佇み、その時を待つ。


 トントンと肩を叩かれ、美鈴はシメシメと思いつつも振り返る。視線の先には馬を引いた剛が立っていた。


─────積年の恨み、同胞の無念を晴らすのよ─────


 美鈴はその燃え上がるような怨念を胸に秘め、しなを作りながら剛に歩み寄る。思惑通りに馬へと乗せて貰った彼女は、その本性を顕した。鬼神と化した美鈴は、身体の中から沸き上がる無節操なまでの力に酔っている。


─────ああ、これで私は報われる。剛を愛宕山へ連れて行き、なぶり殺しにしてやるんだ─────


 女はあやかし、あやかしが女。



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