≡ヴァニティケース≡

 日曜の午後。瀟洒な屋敷の応接間に通された男は、慣れた足取りでソファーに向かい、自ら紅茶の支度を整え無造作に腰をおろした。彼がティーカップに口を付けている足下では、毛足の長い絨毯がその存在感を誇示している。


 窓の外、雨上がりの空からは瞳を貫くように眩い光が庭を照らしている。その光を反射して輝く楢のテーブルには、彼の大好物のマカロンがあった。マカロンはタワーの様に盛り付けられているが、しかしあいにくと皿がない。他に山と盛られたベリー類もあったが、やはりフォークがない。近くを物色してみても爪楊枝一本見当たらなかった。これは素手で食べろということなのだろうか。



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