≡ヴァニティケース≡

「その通りですやろ? あんたはんの言う『研究』の為に、うちのお金を使いたいだけですやん」


 婦人は言葉の端々に強烈な毒を含ませている。男と向き合う形でソファーに腰を下ろしたが、視線は全く合わせていない。


「まぁ、ね……。それはそうとほら、今回はお嬢さんについて少しお話が有りましてね」


 男の表情からは、彼が愉快なのか不愉快なのかが見て取れない。終始トランプのジョーカーのように含み笑っていて、心の色が見透かせない。


「娘の話? なんですのん」


「実はお嬢さん、大変なことをしでかされましてね。ほら、例の彼女を拐って、あと一歩で手に掛けるところだったんですよ」


「ええっ! それはほんまですかっ?」


 驚いた婦人は腰を上げかけたが、軽い貧血を起こしたのか上手く立ち上がれなかった。またヨロヨロとソファーに倒れ込む。



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