≡ヴァニティケース≡

「フンッ、何を今更」


「くっ、苦しい……」


 だが男は全く取り乱す様子もない。何もかもを掌握していながら、なお情報を小出しにして自らを悦に浸らせている、女を嬲っている、そんな印象だ。


「ほぉら言わんこっちゃない。貴女は何も考えず、私にすべて任せていれば良いんですよ。それよりほら、心臓に負担が掛かりますから、あまり興奮しないように」


「これが怒らずにおられますかいな! あんたいうひとは……はぁ、はぁ、うちら親子を……」


 胸を押さえて苦しむ婦人。荒い息、上下する細い肩。その肩に爪を立てて男が婦人を抱え上げる。


「いい加減黙れ! あんたら親子は二十五年前のあの日から私の物だ。そうだろう、ええっ? 違うと言い切れるか。じゃあ、私が居ない方が良かったとでも言うのか? 何もかももう遅いんだよっ!」


「……!?」


「ねえ……奥様。私がここまで周到に準備を進めてきたのは、何の為だと思いますか?」


「え? 何のて、お金の為と違いますの」



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