≡ヴァニティケース≡

「どうする……つもり……?」


 だが、男は振り向かない。ドアが開き、閉じ、すぐに静寂と不安が婦人の心を包む。よほど強い薬だったのか、早くも意識が混濁し始めた。


「私の……かわ、いい、美……」


~♪まるたけえびすにおしおいけ

 あねさんろっかくたこにしき

 しあやぶったかまつまんごじょう

 雪駄ちゃらちゃら魚の棚♪~


 視界に黒い緞帳が降りてくる。体を乳白色の靄が被う。どこからか子どものころに歌った童歌が聞こえてきた。


「美鈴ちゃん……」



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