≡ヴァニティケース≡

 それと同じ頃、京都某所の邸宅では美鈴の命を狙った女がひとりの男と会っていた。


 どうやら彼女は無事だったらしい。事件の日は興奮状態に陥り気を失っただけで、わずかな安定剤と少しの時間ですぐに回復していた。


「調子はどうかな? お嬢さん」


「調子? それは身体のことなん? それとも心持ちのことかいな」


「お好きな方で」


「ふんっ。気分よおしとったら、こないして部屋にこもってたりはしまへんやろ」


「ではまあ、少なくともお身体の方は大丈夫ということで。安心しましたよ」


「ほんにいけすかん人やな。見え透いた世辞なんか要らへんわ。そないなことより、用向きはなんですの?」


 女が美鈴と同じ美しい顔に、美鈴には無い冷徹さを載せて薄ら笑う。背筋が寒くなる程の妖艶さだ。



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