≡ヴァニティケース≡
「全てが丸く収まるアイデアさ。お母様も安心して暮らし、お嬢さんもほら、目障りな邪魔者を排除出来る」
「あんたはんは?」
「私はまあ、研究さえ続けられればそれで結構。どうだい? ほら、謙虚だろう」
ほっとしたのか女はあしらうように頷き、大袈裟に居ずまいを整えた。そして、ふうと一息付いてから男に向き直る。
「はぁ……。ほな聞かして貰いまひょか」
「そうこなくちゃ。でね……」
男は、最近になって女の母親の精神状態が悪化しつつあることを説明した。不安定な情緒、急な混乱。このままでは最悪の事態すら招き兼ねない事実を、女にゆっくりと言い聞かせるように話した。
多くの医者が使う殺し文句を口にする頃には、女もすっかり話に引き込まれていた。
「このままでは取り返しが付かないことになるかも知れない」
「はあ、そない脆い精神やったんですなあ」