≡ヴァニティケース≡

「結果的にはね、まあそうです」


「あんたはんからあの手この手でしつこく言い寄られても、あの女は平気の塀座やったんに」


「ええ。だからこそ今回は深刻なんだ。あの強い彼女が混乱している。それで同僚の心療内科医を紹介しておきました。彼は信頼出来る私の仲間だ」


「なるほど。なんとなく読めてきましたわ」


「ほう、それは優秀だ。さすがはお嬢さんですな」


「馬鹿にせんといて」


「まあ、そう突っ掛かりなさんな。大事な話はこれからだ。それに、お嬢さんのお母様と私が結ばれるということは、私が貴女の父親になるということなんだよ?」


 男はソファーを立って、ぼんやりと外の景色を眺めた。女と話しながらも、これで長年の目的が達成できると、そんなことを考えていた。人間の欲望には限りがないものだとも思った。



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