≡ヴァニティケース≡
「そない言わはっても、いきなりあんたはんを父親とは思えへんでしょうなあ」
「……ん? ああ、それはまあ、そうだろうが、それよりもだ」
声を掛けられ、男の思考が現実に戻る。過去の憎しみに歪んだ表情をふと緩ませた。
「体よく排除、ですわな?」
「そうだ。それについてはお嬢さんにもご協力を頂かないといけない。同意書に判を捺してもらって、当面お母様を隔離病棟に閉じ込めてしまう算段なんだよ。それにはお母様本人の判とお嬢さんの判の両方が要る」
女は感心したように手を打ち、男を見詰め返した。
「なるほどなぁ、確かに名案ですわ。そないなとこに入れっしもぉたら、もう邪魔もでけしまへん。是非協力させて貰いまひょ」
「ありがとう。まあそうやって入院させている間にお母様を説得して、上手く運んで仲直りが出来たら、また前のように一緒に暮らせばいいんじゃないか?」