≡ヴァニティケース≡

「ま、そうですな。こない間柄やっても親子には変わりないんやろし。……はあ、なんやろ。それにしても少しくたびれましたわ」


 女はそう言うと、ソファーの背に体を深く埋めた。瞼を閉じて、口を真一文字に結ぶ。


「そろそろ休ましてもろてもええやろか?」


「なるほど、解った。ぶぶ漬けでも如何ってとこだな。では話した件はよろしく」


 男は外套を手に踵を返した。歩く足を止めずに言う。


「詳細は後日また連絡する」


「ああ、柏木にお送らせます」


「いや、用が有るんでお気遣いは要らないよ。お嬢さんはゆっくり休みなさい」


 そう言って男は部屋のドアを閉めた。


「あいにく貴女のお母様は二度と出られないがね……」


 その呟きが女に届くことはない。ヒタヒタと男の足音だけが長い廊下を歩み去って行った。



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