≡ヴァニティケース≡
その為には真相を知るという彼の話は聞かなければいけない。信じてみなければいけない。例えそれがなんの裏付けもない情報だったとしてもだ。
「大丈夫よ。聞かせて」
もう待っている時間は無い。美鈴は意を決してそう答えた。
「お嬢さん、ほんなら行かせて貰いますわ」
そう言った男の瞳が、ぎらついたように見えた。
彼の話によれば現在起きている一連の事件は、23年前の伊藤家惨殺事件に端を発していると言う。
その白昼、伊藤家は押し込み強盗の手に依ってたまたま外出していた鈴奈と運転手以外の全ての家人、使用人のほとんどが殺された。唯一救出された一人娘のミレイさえ、命の灯火が消える寸前だったらしい。
「その娘さんは助かったの?」
「病院には搬送されましてんけど……」
「けど?」
「全てはそううまく運ばへんもんです。せんせが鈴奈はんに告げたんは、やはり厳しい現実でした」