≡ヴァニティケース≡


「助からなかったんだ。確か図書館で調べた新聞にもそう書いてあったわ。死んじゃったのね?」


「ええ。でもそこに、当時インターン生で勤務してはった若いせんせが「娘を助ける方法がある」と鈴奈はんに近付いて、倫理的には絶対やったらあかん方法を提案しはった」


「まさか……」


「察しがええでんな。そう、クローン技術ですわ」


「クローン……」


「どないしても娘を助けたい鈴奈はんと、おのれの研究の為なら手段を選らばへん医師。そこに利害の一致が有ったんは言うまでもあらしまへん」


「でもクローンだなんて、現実にそんなことが可能なの?」


「可能だったんでしょうな。なんしかその証拠がここにおらっしゃる」


「え?」


 ある日、突然。自分が誰かのクローンだと告げられたら、人はその事実を受け入れることができるだろうか。今まで甘やかしに甘やかしてきた自己の同一性を揺るがされて、平常心を保てるだろうか。



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