≡ヴァニティケース≡


「それだけですやん。他に何か証拠がおますか? いいや、これは貴女に限らへん。人が自分のルーツを証明出来るもんなんぞ、実は何ひとつあらしまへんねん。仮に母親に尋ねはっても、『あなたは私が産んだ』と答えたら、もう信じるより他におまへん。父親に至っては……母親よりも更に信じるしか手立てがない筈です。では親の証言と戸籍書類の信憑性は? 実のところ親子を証明する確固たる証拠なんてどこにもおまへん。それが人間でんがな。ちゃいますか?」


「……」


 返す言葉が浮かばなかった。確かに子からしてみれば、親子の証明は親の言葉に依存するしかない。医者が結託していた場合は戸籍すら操作できるし、余程の疑いが無い限りわざわざ遺伝子検査などしないものだ。


「信じる信じないは自由でおます。しかし、このまま手をこ招いていてもしゃあないのが解らはったんとちゃいますやろか。せやからあんたはんはわての話に耳を傾けた。さあ、これからどないしますか?」


「どない……って?」


「今後のことでんがな。貴女がクローンやっちゅう事実を認める認めないに関わらず、その身に危険が迫ってる事は確かでっしゃろ」



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