≡ヴァニティケース≡


目が覚めると、鈴奈は白壁に囲まれた部屋の中に寝かされていた。もとより弱かった精神が、酷く衰弱している。


「ふう……なんや……こんなんでは、体テイの良い監禁やな……」


 ポツンとひとつ、小さなテレビが置かれている以外、部屋には手洗いとトイレが有るだけだ。窓には柵が施されており、聞けば外出は厳禁、病棟内を歩くのにも担当医の許可が必要だという。まさに軟禁状態だった。


「早速愚痴ですか? ほら、貴女は病人なんですから多少の不便は仕方ないでしょう」


「あんたはんは! ノックものうて、いきなり入って来やはるなんて」


「ああ、これは失礼しました。つい回診の癖でね……」


 鈴奈は慌てたように寝間着の襟元を直しながら、男に向き直った。


「ところで。ほんにうちは治るんでしょうな。美鈴ミレイの心臓のこともおますし、そない愚図愚図はしとられへんのですけど?」


 だが答えはない。もう一度。鈴奈は語調を強めて問い質した。


「なぁ、あんたはん。うちはほんに治るんでしょうな」


 そう尋ねられた男は窓に近寄り、指先でカーテンを弄んでいる。こちらに背中を向けているので、彼がどんな表情をしているのかは解らない。


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