≡ヴァニティケース≡


「何も心配は要りません。ほらそれより、ゆっくり休まないと、早く治りませんよ?」


 鈴奈の溜め息が、ベッドから滑り降りて床を這う。


────ほんまかいな────


 鈴奈の心中は疑問符で満たされる。


「はぁ、近頃はあんたはんが信じられなくなってきましたわ」


「まあそう仰らずに。私はいつも貴女の味方だ。これまでだってほら、そうだったじゃないですか」


「ええ、そうですな。確かに娘を生き返らせてもろたことは感謝しとります」


 すると、そこで不意に男は振り返った。笑ってはいるが目には狂気が宿ってる。それから天気の話でもするように、「ああ、言ってませんでしたか? あれは鈴奈さん自身のクローンです。美鈴ミレイさんの細胞は弱っていて、正常に分裂しなかったのでね」と言い放った。


「……は……ぁ?」


「だ·か·ら、今の二人のお嬢さんはほら、貴女自身のコピーだという事ですよ」



< 294 / 335 >

この作品をシェア

pagetop