≡ヴァニティケース≡
途端、病室中を痛い程の静寂が支配した。
一瞬、鈴奈は何を言われたのかも解らなかったのだろう。理解が進むにつれ彼女の表情がみるみる強張っていく。
「そ、そないなこと……」
二十数年前の決断。それは娘を失いたくなかったからこそだった。一人きりになるのが嫌だったから。可愛い娘を救いたかったから。やむにやまれず行ってしまった悪魔の所業だった。
「そ、そない大事なことを、うちに二十年以上も隠してたんか! あの子らが美鈴ミレイやのおて、うち自身やった言うんか!」
「でもほら、それでも貴女の血は流れている。で、なのに貴女とは別人だ。立派な娘さんに違いないじゃないですか」
「あは、……ははは。じゃあ、うちのあの日々はなんやったんや! 良心の呵責に耐えもって、美治さんの血が通うた大事な我が子や思うて大切に育てて来たんは、結局うち自身でしかなかった言うんか。……フフフ……あはは、あは、あは……あはは……美鈴ミレイちゃんミレイちゃん、私の可愛い子供、あは、あははは……」