≡ヴァニティケース≡


 昨夜、美鈴は今日中に起きるであろう事態への対処を慎重にシュミレーションしていた。


 いつ頃、何が起きるか。相手に、どんな扱いを受けるか。その場合、どう行動するか。自分で決めた事とはいえ、いざ現実に起きるのが解っていると心配は尽きない。


 結局、昨夜は殆ど眠れなかった。だが、それも計画の為だ。いや、せめて真実を知る為だ。このまま理由も知らずに死ぬ方が嫌だ。今は眠いなどと言ってはいられない。


 一連の事件解決に向けて、美鈴にはひとつの考えがあった。それを実行しなければ、いずれ自分は殺されてしまうかも知れない。推理と証拠とがひとつに繋がっても、解決行動に出ないでは片手落ちだ。ただ真相に迫るだけでは、腕っぷしの強い相棒のいない安楽椅子探偵に等しい。いずれ暴力に蹂躙されてしまう。


────たぶん今夜、全てが解る。その引き換えとして私は死ぬかもしれない。でも、いつまでも狙われ続けるくらいなら、いっそ賭けに出た方がいい────



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