≡ヴァニティケース≡
そもそも美鈴は、バニティーケースに入っていた写真の人物を知りたかっただけだ。知ってからは会ってみたくなっただけだ。そこに自分の知らない謎があるのではと訝っていただけに過ぎない。だが、実際には謎に迫る前に、何者かに命を狙われるようになった。しかも、何故か危険から守ってくれる者達まで現れた。正直、展開の早さに面食らった程だ。
そして遂に拉致されてしまった時、そこに居たのは写真の女によく似た……いや、美鈴自身によく似た女だった。確かにそれがクローンだと言われれば信じたくなる程によく似ていた。
偽物、古い写真、同世代の本物、全て同じ顔。狙っていたのは本物で、狙われた美鈴が偽物。では、本来はクローン同士の筈が、二十数年経って本物と偽物に分かれた決定的な理由とはなんだったのか?
そんなことは決まっている。ふたりを分けたのは、ただの偶然に過ぎない。先に気に入られたか先に産声を上げたか、いずれにしても大層な理由など存在していなかった筈だ。
────恨んでいいのは私の方よ────