≡ヴァニティケース≡


「私を守ってくれていた人達が、みんな居なくなるってことなの?」


 始めは意味が解らなかった。そもそも彼らに取って美鈴は、単なる対象物に過ぎない筈だ。なのにわざわざ忠告してくるのは、彼ら裏稼業の人間に取ってルール違反ではないのか。


 いや、そんなことよりも今後どうするかの方が重要だ。守ってくれる者が居ない状態では外出もままならない。美鈴を狙う女と接触するにしても、それに伴う危険もただごとではない。


 メールの文言から推測すれば、どうやら美鈴を守るように命じていた人物からの依頼が取り下げられたらしい。


 美鈴は急いで携帯を手に取った。必死に文章を打ち込む。これが最後になっては嫌だ。着信を拒否される前にメールを送ってしまいたかった。


「送信……と」


 今朝になっても送信エラーのメッセージが出ていなかったところをみると、少なくとも相手には届いたと信じたい。



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