≡ヴァニティケース≡


 ドックン!


 途端に胸が苦しくなった。まだ生きていると思ったのは間違ではないらしい。死んだ人間の鼓動は乱れないからだ。だが、これから自分が何をされるのかを思うと、心臓へ今の内にバカンスを与えたくもなる。


 またか。またここか。では、電車で美鈴に薬を打った奴らは、やはり例の女の手の者だったのか。予想通りとは言え、剰りに筋の通った展開に美鈴は、皮肉のひとつも言いたくなっていた。


「目は覚めたか?」


「ええっ?……どうして?」


 一瞬、美鈴は目を疑った。そこに立っていたのがあのパーカー男、塚田だったからだ。


「どうして、ここに、あなたが?」


「おいおい。訊かれて素直に答えるとでも思うのか?」



< 309 / 335 >

この作品をシェア

pagetop