≡ヴァニティケース≡


 彼らが美鈴を守る任務から離れたのは知っていた。一方的なメールとは言え、知らせてくれたのは親切だとも思った。


 しかし、まさか今度はあの女から雇われるとは……。


 だから美鈴に逃げろと言ってきたのか。だからわざわざ知らせてきたのか。確かに居場所も行動も、あまつさえどこから手に入れたのか、美鈴のメールアドレスまで把握している彼らなら、彼女の拉致は容易い。


「仕事に徹する男のひとは素敵やわぁ」


 そこへあの女が能天気に現れた。美鈴と同じ顔をした、なのに美鈴を憎むあの女。次から次へと、あの手この手と、よくもまあそれだけ熱心になれるものだと、ついつい感心したくもなる。


「貴女は! あの時発作で死んだんじゃなかったの?」


「そない勝手に殺さんといてくだはります? 憎まれっ子世に憚る言いましてな。けど、憎まれても憚った者モンの勝ちですわ。あんたはんにはうちの心臓になって貰いますえ」



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