≡ヴァニティケース≡
「な……ぜ……どうして先生がここに居るの?」
美鈴の頭の中で、なにかがパチンと弾けるような音がした。伸びきったゴムが限界に達し、切れる時のあの音に近い。
「どうしてって……。私は最初からここに居たよ。ほら、どこにでも居て、何にでも影響力を及ぼすのが物語の主人公だろう、違うかい? まあ、単に美鈴君が知らなかっただけの事さ」
「じゃあ……じゃあ最初から私を騙していたって言うの? 親切顔して、助ける振りまでして。この人でなしっ!」
椅子に縛られたままの美鈴の右手が無意識に拳を作り、固く結んだ掌に爪が食い込んだ。
「おやおや、随分と酷い言い様だな。それに振りじゃない。ほら、ちゃんと手助けしてきただろう?」
「最後には殺す為に助けてくれていたって事じゃない! そんなの親切心とは程遠いわっ!」
「ククッ、そりゃあ助けるさ。ほら、お嬢さんの移植には君の心臓が必要だと言っただろう。私が手を下す前に死なれては、まあ、その、困るからね」