≡ヴァニティケース≡


 すると美鈴ミレイが溜め息混じりに溢した。


「せやからうちらはホムンクルス……人間ヒトが拵えた作り物や言うたやないの」


「作り……物……」


「言葉も出ないって感じだね。しかし、これには色々と込み入った事情がある。君には気の毒だが、まあ仕方がない。最後にほら、説明だけはしてあげるよ」


 石田はそう言ってから目を細め、まるで遠くでも見詰めているように虚空を見上げた。過去に思いでも馳せているのだろうか。


「まずは君の出生からかな……」


 やがて石田は、ポツポツと話し始めた。


 二十五年前、伊藤鈴奈は残酷な強盗の手によって家族を惨殺された。唯一救出された一人娘の美鈴ミレイさえ、その命の灯火を消そうとしていた。


 絶望と悲しみに打ちひしがれながらも、鈴奈はミレイの生存を一心に祈った。或いは少し気が触れていたかもしれない。その時の鈴奈は、とても正常な精神状態とは言えなかった。



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