≡ヴァニティケース≡
深夜になって、看護師の人数が減ったのを見計らい、石田はICUに入れられたミレイの元へと向かった。やはり彼女の体は著しく衰弱していた。
─────やってはみるが、しかし難しいか……─────
結果は危惧していた通りだった。培養液の中でもミレイの細胞は正常に分裂せず、鈴奈の細胞だけが培養に耐えた。ミレイと名付けられた女児は、実は鈴奈自身のクローンだった。
「もちろん鈴奈さんには、君達が自分のクローンであることは伝えなかった。それはそうさ。あくまで彼女は娘の蘇生を望んでいたのだからね」
話をする石田の頬には明らかな狂気が見える。映画で見たフランケンシュタイン博士でもこれ程ではなかっただろう。
「でも……それなら……ミレイさん一人で充分だった筈だわ。何故私が生まれてきたの?」
「そいつはまあ当然だろう。培養途中で万が一にも何かが起こってみろ、私の計画は台無しだ。だから念の為にクローン体を二体用意した。まあほら、美鈴ミスズくんはその出来の悪い方という訳さ」
それは典型的な、手柄を他人に説明する瞬間に快感を覚える人種特有の口調だった。