≡ヴァニティケース≡
「それにほら、鈴奈さんはミレイが生きていてこそのパトロンだ。成長過程でそのお嬢さんに何かあったら困るじゃないか。本当に頭の切れる人物というのは、そうやって先の先まで考えているものさ」
「ひ、酷過ぎる。じゃあ、私はそれだけの為に造られたっていうの? 貴方の復讐の為だけに……」
信頼していた石田の言葉とは到底思えない。美鈴ミスズは怒りよりも先に無力感に支配された。この世に神は無いものかと。
「完璧を期す為に分裂と発育が良好だった個体を優先するのは当然のことだよ。だが勿論私は、用済みになった美鈴ミスズくんの個体を廃棄しようとした」
「用済みって……」
「しかし、あいにく鈴奈さんが用意してくれた研究室でそれを見られてね。もう一人居るのならそれも自分の子だと言って、殺したら報酬は払わないと怒り狂ったんだ。私は仕方なく里親を探したんだが、運良く長年夫婦両方の不妊治療で悩んでいた大城夫婦を見つけてね。おかげで私は、鈴奈さんと大城の両方から莫大な報酬を得た訳さ」