≡ヴァニティケース≡
美鈴は小さい頃から聞かされていた、両親の事情を思い出した。
─────やっと授かった子だったんだって、お父さんもお母さんもいつも言ってた……だから私にはうんと幸せになって欲しいって……─────
あれは全く血の繋がっていない両親がくれた、無償の愛だったのだ。
「父と母は私がクローンだと知っていたの?」
「まさか。そんなことを言う訳はない。ただ、やんごとなき生まれの娘とだけは説明しておいた。だが、ひとつ誤算だったのは、大城がこの子の元の名前は何だと聞くから『美鈴ミレイ』だと教えてやったら、奴は字はそのままで『美鈴ミスズ』なんて名前を付けやがってね。それを知ったのはだいぶ年月が過ぎてからだったんだが、だからこんなややこしい事になってしまった。本当に田舎者のやることは解らん」
石田は忌々しそうに眉間に皺を寄せると「名前は自由に付けろとは言ったが、当然全く関係ないものを考えると思うだろう? 全く!」と吐き捨てた。